「LUMIX BASE TOKYO」(港区南青山)にて2022年10月30日(日)に実施されたワークショップ「LUMIX Color Lab Seminar 簡単にワンランク上のルックをつくれる カラーグレーディング講座(LUT入門編)」をレポートする。
https://lumix-base.jpn.panasonic.com/workshop/detail/?id=97
本ワークショップでは、LUMIX Color Labで配布しているオリジナルLUT(*)の使い方を中心に、DaVinci Resolveでのカラーコレクション(カラコレ)から、LUTを使用したグレーディングの手順までを、ハンズオンを交えながら解説。講師は上記オリジナルLUTを制作した映像クリエイターのShukei Fujii氏とDaVinci Resolve認定トレーナーの照山 明氏が務めた。
*LUT ルックアップテーブル(LookUpTable)。映像の色変換情報を記録したプリセットファイルのことで、映像に適用することで簡単にカラーグレーディングを行える。読み方は「ラット」
講師紹介
ーShukei Fujiiー
映像クリエイター
1994年広島県生まれ。メーカーの海外営業部に勤める傍ら、趣味で始めた映像制作に夢中になる。約40ヵ国の旅経験で培った感性や語学力を活かし、「日本の魅力を世界中に届けたい」という想いのもと、観光PR / Vlog / ドキュメンタリーなどの映像を制作。現在は旅行メディアやカメラメーカーとのコラボに注力。Panasonic LUMIXとのコラボ企画「LUMIX CINEMA」にて長野県阿智村のPR動画制作実績あり。
ー照山 明ー
映像制作会社、株式会社ガイプロモーション代表。主に企業系の映像制作に携わる傍ら、カメラや撮影機材、編集ソフトにまつわる記事・動画をマニアックに発信中。DaVinci Resolve認定トレーナー。
カラコレ&グレーディング作業のながれ
ワークショップでは、まずShukei氏が動画制作の全体像について、おおよそ6つの手順に分けられると解説した。
1 撮影
2 PC上でデータ整理・大まかな動画の構成を検討
3 素材のカット編集
4 カラーコレクション(カラコレ)
5 カラーグレーディング
6 エフェクトやテロップの追加
今回のワークショップは5番目、カラーグレーディングをLUTを用いて行う趣旨だが、Shukei氏はまずその前のカラーコレクションが大切だと話す。その理由はプロの現場におけるカラーワークフローにある。プロの撮影では、色情報豊かに撮影できるLog撮影が多く活用されているが、Logのデータはハイライトとシャドウの情報がかなり多いため、そのままではコントラストや彩度が低い画となる。そのため、カラーグレーディングを行う前に、見た目をノーマライズする必要があるのだ。具体的に調整する要素は次の4点である。
1 露出(Exposure、エクスポージャー)
2 コントラスト
3 彩度(Saturation、サチュレーション)
4 ホワイトバランス
調整が済み、見た目がフラットになった画に対して、作品のテイストやトーンを表現するための色づくりがカラーグレーディングである。ハリウッド作品でも多く見られるシネマティックな「ティール&オレンジ」(またはオレンジティール)は、画面全体に青やオレンジを乗せたカラーグレーディングの一例だ。カラーコレクションはある程度のルールがあるのに対して、カラーグレーディングには正解はない点が面白いところである。
セミナーでは照山氏がDavinci Resolveを用いたカラーコレクションとカラーグレーディングの手順を実演した。
「カラー」ページのノード構成は下図の通り。
処理は左から右にながれている。まずはカラーコレクション用の露出とコントラスト、ホワイトバランスが並び、続いてグレーディング(上から、 色相 vs 色相、色相 vs 彩度、 色相 vs 輝度、 輝度 vs 彩度)、その後にカラーコレクションの仕上げになるカラースペース変換、続いてRGBカラーの微調整(カスタム)、最後に白を白に、黒を黒に戻す最終調整( 輝度 vs 彩度)というノード構成になっている。
ここでポイントとなるのは左から4工程目のカラースペース変換で、LUMIXのV-Log映像を一発でノーマライズするために使用している。具体的には、「入力カラースペース」に「Panasonic V-Gamut」、「入力ガンマ」に「Panasonic V-Log」を指定し、出力カラースペースにはタイムラインカラースペースの「Rec.709-A」を指定している。これを4工程目に配置している理由は、カラースペースの変換後にグレーディングを行ってしまうと、仮に演色後に色が飛んでも色が戻ってこなくなってしまうためだ。
また照山氏は最後の「 輝度 vs 彩度」もポイントだと話す。「真っ白い部分に色が被っていると気持ち悪いですよね。なんだか安っぽいフィルタをかけた動画のように見えてしまいます。黒も同じで、黒い部分に例えばティール&オレンジの色が被ってしまったら、とても安っぽい映像に見えます。白は白、黒は黒としっかり色を締めるために、
最後の 輝度 vs 彩度を使っています」。
LUMIX Color Lab Shukei氏のオリジナルLUT
基本的なカラーコレクションとグレーディングの解説を終え、本ワークショップは本題となるLUTの解説に移った。
LUTは、先ほどの解説のように、ノードをいくつも使用してつくり上げたカラー調整をプリセット化したもの。LUTを動画素材に適用することで簡単にその世界観を再現でき、カラーグレーディングの時間短縮にも繋がる。
今回、Shukei氏はLUMIX Color Labのために4種類のLUTを作成。「旅によく出てくるシーンを想定して、様々な景色に合わせた4種類を、コントラスト弱めと強めの2つずつLUTにしました」(Shukei氏)。
LUMIX Color LabのLUTダウンロードはこちらから。
https://lumix-base.jpn.panasonic.com/color-lab/
ではLUTをひとつずつ見ていこう。
1 S-Teal & Orange
いわゆるティール&オレンジを再現できるLUT。映像内でオレンジに近い色をよりオレンジに寄せ、水色に近い色をより水色に寄せる。「4種類の中では万能なLUTかなと思っています。特に海辺や雪景色と相性が良いのですが、基本的にどんなシーンでも活用できるはずです」(Shukei氏)。
2 S-Deep Forest
森の中のシーンなど、綺麗な緑をしっかり出すことにこだわったLUT。緑が多いシーン全般と相性が良く、夏の草木が生い茂った山などでも有効に活用できる。
3 S-Golden Hour
全体的にオレンジ色に寄せた色味がベースの、夕陽の時間帯を強調したルックに仕上がるLUT。「特に夕陽が沈む直前の柔らかい光が入る時間に当てると、すごく綺麗なルックになると思います」(Shukei氏)。
4 S-Night Time
シャドウに青緑を加え、ハイライトを黄色とオレンジに寄せた、夜のシーンで活用できるLUT。「街中のイルミネーションや夜景、キャンプなど、夜のシーンを雰囲気良く強調できるLUTです」(Shukei氏)。
LUT活用のハンズオン
LUT4種の紹介後、ワークショップはShukei氏主導でLUT活用のハンズオントレーニングへ。
まずはDaVinci Resolveを起動し、画面右下の①歯車アイコンから②「プロジェクト設定」を開く。カラースペースを適正化するために③「カラーマネジメント」→④「出力カラースペース」を⑤Macの場合は「Rec.709-A」、Windowsの場合は「Rec.709 Gamma 2.4」に設定。その下の⑥「LUTフォルダーを開く」ボタンを押し、開いたフォルダに今回のLUT4種をコピーする。
※⑥で開いたフォルダにはデフォルトでDaVinci ResolveのLUTが複数入っており、そこに適用させたいLUTをドラッグ&ドロップで追加することができる
続いて「エディット」ページで動画素材をメディアプールに読み込んでタイムラインに並べ、「カラー」ページで画面左上のLUT一覧からクリップにドラッグ&ドロップすればLUTの適用は完了だ。
※LUTの使い方に関してはこちらでも確認することができるhttps://lumix-base.jpn.panasonic.com/color-lab/#howtolut
LUTの適用方法がわかったところで、手順としては前に戻ってカラーコレクションの実践に移る。画面右下にはスコープを「パレード」で表示し、赤緑青の3色の分布が見えるようにする。左下は「プライマリー - カラーホイール」を表示しておく。
クリップのプレビュー右にあるノードビューでShift+Sキーを2回押してノードを2つ追加。最初に追加されたノードを選択して、スコープを見ながら今回の場合はカラーホイールの「リフト」を「-0.02」、「ゲイン」を「1.10」に調整。リフトではシャドウを下げ、ゲインではハイライトを上げたことになる。
「ハイライトはスコープで上から2番目のライン、890あたりにしています。これ以上にすると空が飛んで情報がなくなってしまうというギリギリのラインで、このくらいにしておくと、コントラストがついていい明るさになると思います」(Shukei氏)。
以上で露出調整は済んだので、続いてホワイトバランスの調整。2つめのノードを選択して、カラーホイールの上にある「色温」でカラーバランスを調整する。「パレードで赤と青の上のほうを比べると、青が気持ち上がっています。これはつまり全体的に青かぶりになっているということです。そこで『色温』を青からオレンジに寄せて、色かぶりをなくします」(Shukei氏)。
LUMIXでの撮影のコツ
LUTのハンズオンでは参加者からの積極的な質問も飛び交い、充実した学びになった様子の会場。続いてShukei氏からLUMIXでの撮影のポイントに話が及んだ。「LUMIXで撮影するときは、『フォトスタイル』を『V-Log』にして、『動画記録形式』は『10bit』にして撮るのがお勧めです」。
V-Logかつ10bitで撮影することにより、ポスプロ工程に適した階調豊かな動画素材が撮影でき、LUTの適用を含めたグレーディング時に伸びやかな階調表現が期待できるということである。
また、「撮影段階で白飛びや黒つぶれが起こらないように、ゼブラやヒストグラムを活用して正確な明るさで撮影するようにしましょう」とShukei氏。特に青空の屋外で人物を撮る場合、人物を基準に露出を合わせると空が飛んでしまうことが多いと注意を呼びかけた。
なお、LUMIXの「V-Logビューアシスト」機能を使うと、内部にLUTを4つインストールすることができる。撮影自体はV-Logで行うが、カメラの液晶モニタでのプレビューはLUTを当てた状態で行える。最終イメージが確認しやすくなる、便利な機能だ。
この後ワークショップは質疑応答タイムを経て締めくくられた。カラーコレクションの基礎からLUTの活用したグレーディング、そして撮影のTipsまで盛りだくさんの内容となった本講座。照山氏とShukei氏に近い距離感で参加者が学んでいる様子が印象的だった。
LUMIX Color Labは今後も色表現の幅を広げる様々な情報を提供してくれる。ぜひ活用してみてほしい。